障害年金を受給できる状態とは(脳梗塞の後遺症の場合)

脳梗塞後遺症の場合の認定基準

日本人の死因の第3位である「脳血管疾患」。その一つである脳梗塞は、血管が詰まることで酸素や栄養が運ばれなくなってしまった結果、身体の機能に大きなダメージを残してしまうのある恐ろしい病気です。

主な原因として、大量飲酒やヘビーな喫煙習慣、運動不足等が挙げられています。

ストレスの多い社会ですから、なかなか他人事として無視するわけにはいかない疾患なのではないでしょうか。

 

では、もし脳梗塞で後遺症が残ってしまった場合、どのような状態になったときに障害年金がもらえるのか(障害年金受給の3つの条件の一つである「障害状態要件」)について、解説していきます。

後遺症の残った場所によって認定基準が異なる

脳梗塞による後遺症は全身の様々な場所に生じます。そのため、症状が出ている場所によって認定基準が異なります。それぞれについて、見ていきます。

①身体障害(麻痺など)が残った場合

②平衡機能(バランスをとる)に障害が残った場合

③そしゃく・嚥下機能に障害が残った場合

④言語障害が残った場合

⑤視力・視野障害が残った場合

⑥聴覚障害が残った場合

⑦高次脳機能障害(記憶力や注意力の低下、人格変化など)を含む器質性精神障害が残った場合

①身体障害(麻痺など)が残った場合の認定基準
身体に麻痺などが残ってしまった場合には、こちらの認定基準をもとに審査が行われます。
 
障害の程度障害の状態
1級

・両上肢または両下肢が全く機能していないもの

・一上肢および一下肢が全く機能していない状態

・両上肢または両下肢のすべての指が全く機能せず、「無い」状態に等しいもの

 

2級

・両上肢の親指および人指し指又は中指が機能せず、「無い」状態に等しいもの

・一上肢または一下肢が全く機能していないもの

・一上肢または一下肢のすべての指が全く機能せず、「無い」状態に等しいもの

3級

・一上肢または一下肢がほとんど機能していないもの(3大関節のうち2関節以上がほとんど動かすことができない状態)

・一上肢の指のうち、親指および人指し指に加え、あと2指が機能せず、「無い」状態に等しいもの

②平衡機能(バランスをとる)に障害が残った場合

立っている時や歩いている時に身体のバランスを保つ機能に障害が残ってしまった場合には、「平衡機能の障害」の認定基準で審査されます。

障害の程度障害の状態
2級

・眼を閉じた状態で起立・立位保持ができない

・眼を開いた状態で直線を歩行中に10メートル以内に転倒あるいは著しくよろめいて歩行を中断せざるを得ない程度のもの

※手足や体感機能に器質的異常が無い場合

3級

中等度の平衡機能の障害のために、労働能力が明らかに半減しているもの

中等度の平衡機能の障害とは、眼を閉じた状態で起立・立位保持が不安定で、眼を開いた状態で直線を10メートル歩いた時に、多少転倒しそうになったりよろめいたりするが、どうにか歩き通す程度のものをいいます。

障害手当金神経系統に労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの
③そしゃく・嚥下機能に障害が残った場合

そしゃく・嚥下機能の障害は、食べ物の摂取が困難な状態、あるいは、誤嚥の危険が大きい状態に該当した場合が対象となります。

その原因は、歯、あご(顎関節も含む)、口腔(舌、口唇、硬口蓋、頬、そしゃく筋など)、咽頭、喉頭、食道等の器質的、機能的障害(外傷や手術による変形、障害も含む)等、多岐にわたります。もちろん脳梗塞により生じたものも対象となります。

そしゃく・嚥下機能の障害の程度は、摂取できる食物の内容、摂取方法によって、次の表のように区分されますが、関与する器官、臓器の形態・機能、栄養状態等も十分に考慮して、総合的に判断されます。

障害の程度障害の状態
2級

・流動食以外は摂取できないもの

・経口的に食物を摂取することができないもの

・経口的に食物を摂取することが極めて困難なもの(以下のような場合)

 ⅰ.食べ物が口からこぼれ出るため常に手や器物などでそれを防がなくてはならないもの

 ⅱ.一日の大半を食事に費やさなければならない程度のもの

3級

・経口摂取のみでは十分な栄養摂取が着ないためにゾンデ栄養の併用が必要なもの

・全粥または軟菜以外は摂取できない程度のもの

障害手当金ある程度の常食は摂取できるが、そしゃく・嚥下が十分にできないため、食事が制限される程度のもの
④言語障害が残った場合

言語機能の障害とは、発音に関わる機能または音声言語の理解と表出に関わる機能の障害を言い、構音障害又は音声障害、失語症及び聴覚障害による障害(先天的又は後天的な聴覚障害で音声・言語の障害が生じたもの)が含まれます。

障害の程度障害の状態
2級

発音に関わる機能を喪失するか、話すことや聞いて理解することのどちらか又は両方がほとんどできないため、日常会話が誰とも成立しないもの

3級

話すことや聞いて理解することのどちらか又は両方に多くの制限があるため、日常会話が、互いに内容を推論したり、訪ねたり、検討を付けることなどで部分的に成り立つもの

障害手当金話すことや聞いて理解することのどちらか又は両方に一定の制限があるものの、日常会話が、互いに確認することなどで、ある程度成り立つもの
⑤視力・視野障害が残った場合

視力や視野に障害が残った場合には、眼の障害の認定基準にて審査が行われます。より詳しく見る場合にはこちらからご確認ください。

障害の程度障害の状態
1級両眼の視力の和が0.04以下のもの(矯正視力)
2級両眼の視力の和が0.05以上0.08以下のもの(矯正視力)

求心性視野狭窄または輪状暗転があって、次のいずれかに該当するもの

(ア)1/2の視標で両眼の視野がそれぞれ5度以内におさまるもの

(イ)両目の視野がそれぞれ1/4の視標で中心10度以内に収まるもので、かつ、1/2の視標で中心10度以内の8方向の残存視野の角度の合計が56度以下のもの

(左右別々に8方向の残存視野の角度を求め、いずれか大きい方の合計が56度以下)

ゴールドマン視野系の1/4の視標での測定が不能の場合は、求心性視野狭窄の症状を有していること。
3級両眼の視力が0.1以下に減じたもの(矯正視力)
障害手当金両眼の視力が0.6以下に減じたもの(矯正視力)

一眼の視力が0.1以下に減じたもの(矯正視力)

両眼による視野が2分の1以上欠損したもの

両眼の視野が10度以内のもの

※視野の測定は「ゴールドマン視野計」および「自動視野計」により計測します。

※求心性視野狭窄は、網膜色素変性症や緑内障などにより、視野の周辺部分から欠損が始まり見えない部分が中心部に向かって進行するもの。

⑥聴覚障害が残った場合
障害の程度障害の状態
1級両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの
2級両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの
身体の機能の障害が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級両耳の聴力が、40センチメートル以上では通常の話声を介することができない程度に減じたもの
障害手当金一耳の聴力が、耳殻に接しなければ、大声による話を介することができない程度に減じたもの
⑦高次脳機能障害(記憶力や注意力の低下、人格変化など)を含む器質性精神障害が残った場合

器質性精神障害(高次脳機能障害を含む)には、次のような症状が例として挙げられます。

・失行(目的に合った動作をできない状態)

・失認(ものを的確に把握できない状態、人の顔がわからないくなる等)

・記憶障害(記憶力の低下。新しいことが覚えられない等)

・注意障害(注意力の低下。ぼんやりしていてミスが多い等)

・遂行機能障害(物事の段取りを把握できない状態。レシピ通りにできない等)

・社会行動障害(自分をコントロールできない。興奮を抑えられない、暴力的になる)

※失語も典型的な症状ですが、認定基準は上記④に該当します。

障害の程度障害の状態
1級

高度の認知障害、高度の人格変化、その他の高度の精神神経症状が著明なため、常時の援助が必要なもの

2級認知障害、人格変化、その他の精神神経症状がち著明なため、日常生活が著しい制限を受けるもの
3級

1 認知障害、人格変化は著しくないが、その他の精神神経症状があり、労働が制限を受けるもの

2 認知障害のため、労働が著しい制限を受けるもの

障害手当金認知障害のため、労働が制限を受けるもの

書類作成に関するポイント

障害年金の申請には、医師が作成する診断書請求者自身が作る病歴就労状況等申立書の提出が必要となります。

書類作成の際に、覚えておいて頂きたいポイントを挙げていきます。

①初診日から6か月経過したら医師に相談する

障害年金の請求権は、初診日から1年6か月経過した日(「障害認定日」という)に発生します。

しかしながら、脳梗塞などの脳血管疾患を原因とする障害の場合、初診日から6か月経過した日以降に、医学的観点から、それ以上の機能回復がほとんど望めない(「症状固定」という)と判断されたときに、障害年金の請求権が発生します。

「症状固定」かどうかは、「医学的観点から」判断してもらうことになりますので、初診日から6か月経過している場合には医師に相談してみると良いでしょう。

②症状ごとに適切な診断書を使用する

脳梗塞後遺症は、その症状が多岐にわたるため、症状ごとに使用する診断書も違ってきます。

いくつかの症状が併存している場合には、複数枚の診断書を組み合わせて申請することも可能です。

主なものをまとめましたので、症状に合わせて適切な診断書を使用してください。

症状診断書の種類
身体障害(麻痺など)が残った場合肢体の障害用の診断書
平衡機能(バランスをとる)に障害が残った場合

聴覚・鼻腔機能・平衡機能、そしゃく・嚥下機能、音声又は言語機能の障害用の診断書

そしゃく・嚥下機能に障害が残った場合
言語障害が残った場合
視力・視野障害が残った場合眼の障害用の診断書
聴覚障害が残った場合聴覚・鼻腔機能・平衡機能、そしゃく・嚥下機能、音声又は言語機能の障害用の診断書

器質性精神障害が残った場合

(高次脳機能障害を含む)

精神の障害用の診断書
③病歴就労状況等申立書はしっかりと書く

状況等申立書を作成するときに、私が個人的に大切にしているポイントを挙げていきたいと思います。

ⅰ.診療の内容は詳細に書く。

診療の内容はできるだけ詳細に記載します。

医師から言われている、生活を送る上での注意点や仕事上の注意点等をしっかりと記載するのが良いと思います。

ⅱ.日常生活における支障・困っていることを詳細に書く。

脳梗塞の後遺症状により、日常生活上どのようなことで困っているのか、仕事上どのようなことで困っているのか、等支障を詳しく記載すると良いでしょう。

例えば、遂行機能障害があるため仕事の段取りが覚えられない、右半身に運動機能障害が残り退職せざるを得なかった、等です。

ⅲ.最も重要なのは診断書との整合性

最後に最も重要なこと。それは、診断書との整合性です。

たとえば、診断書の中で記載のない症状について、病歴就労状況等申立書の中に記載を行ったとしても、その内容は、おそらく審査には反映されないでしょう。

ですから、診断書の内容と病歴就労状況等申立書の内容を照らし合わせて、しっかりと確認する必要があります。

実際に日常生活に起こっている支障と診断書の記載内容との間に相違がある場合には、診断書を作成した医師に相談する等の対応が必要になるでしょう。

最後に

当記事をお読みいただいて、「自分の場合はどうだろう?」「まず何から始めたら良いだろう?」と思われた方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、TAMA社労士事務所へご相談ください。

初回のご相談は無料です。

また、着手金1万円、医療機関に支払う診断書等の作成料(実費)、住民票等の取得料金(実費)以外はご相談者様が障害年金を受給できた場合のみ料金が発生する形になっています。

安心してご相談ください。

初回の相談は無料です。

電話でのお問い合わせはこちらメールでのお問い合わせはこちら

執筆者プロフィール

玉置 伸哉(社会保険労務士)

1982年生。八雲町生まれ旭川市育ちの生粋の道産子。

アルバイト時代の仲間が、就職した会社でパワハラ・セクハラ・給与未払いなどの仕打ちを受けた挙句に身体を壊したことをきっかけに社会保険労務士を目指す。

札幌市内の社会保険労務士事務所で7年間従事、うち6年間を障害年金の相談専門の職員として経験を積み2018年4月に退職。

2018年8月に社労士試験を受験(6回目)し、同年11月に合格。

2019年2月、TAMA社労士事務所を開業。

障害年金に特化した社会保険労務士として、障害年金請求のサポートを日々行っております。

また、就労支援事業所様等において「30分でざっくり覚える障害年金講座」「障害年金出張相談会」を積極的に行っています。

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